
2021年4月
抗がん剤治療による発熱が立て続く。
そのため4月も入退院の日々が続く。
3月に下旬に開幕したプロ野球を妻も観始めていた。
東京ヤクルトスワローズファンである私が今年も騒ぎ始める。
プロ野球ファンを近くに持つ人の春の風物詩だろう。
2020年シーズンも入院中にDAZNでたまに観ていたが、おそらくシーズン頭から流れを追いかけてみたかったのだろう。
夫婦共通の話題を作ろうとしてくれていたのだろうか。
シャワーヘッドを替えたこと。
にんにくばかり食べていること。
友達と電話したこと。
新発売されたスマホがオーバースペックだったこと。
舐達麻が逮捕されたこと。
粗大ごみの処理券を買ったこと。
ボンゴレビアンコを美味しく作れたこと。

LINEを振り返るとそんな些細な日常を報告していた。
少しでも病気以外の日常を楽しんでほしかったし、そんなコミュニケーションが何よりも楽しかったから。
妻は優しく私のくだらない話にも付き合ってくれた。
2021年5月
ゴールデンウィーク中はほとんどを家で過ごせることになった。
4/30(金)に退院し、祝日が明ける5/6(木)から入院。
妻と過ごせる最後のゴールデンウィークになるかもしれない。
だいたいのことが最後になってしまう。
しかし、そうはいってもすべてが飲み込めるわけではないのでその事自体に大きなダメージを都度受けることはなかった。
それにだいたいのことが最初で最後だ。
年に一度同じ行事があろうが、そのひとつひとつは独立したイベント。
次があろうとその日は最初で最後。
全頭ブリーチ。
このゴールデンウィークは髪を染めることにした。
気分を変えたいから以外の理由は特になかったが、後付の理由としてはいろいろある。
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妻の葬式が少しでも先になるように。願掛け。
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コロナ自粛疲れ。かたちだけでも明るくしたい。
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妻の反応を見たかった。

無駄な行為と簡単に切り捨ててしまえることだろうが、この時髪を染めてよかった。

コロナ禍で妻の闘病を支える生活でメンタルが想像以上にやられていた。
少しでもリフレッシュしたかった。
ブリーチ中の頭皮のヒリつきに背徳感を覚えていた。
長年担当してくれている美容師さんとわいわい楽しい時を過ごせたのもリフレッシュ効果のひとつとしてあった。
このタイミングで自分の見た目を変えるのは大きく効果が出たと思う。
外面と内面は表裏一体。
外が明るくなると自然と中にも反映される。
自社の社長が先んじて金髪にしていたことが最終的な後押しになった。
長期休暇を回す。
ゴールデンウィークが明けて日常に戻る。
長期休暇明けではあるが、有給消化と業務の属人性解消を目的としてチームで一人ずつ一週間の長期休暇を取ろうという計画がはじまった。
ベンチャー企業のいいところ。
この手の話は進むのが速い。
協議の結果、私は6月の下旬に長期休暇を取得することになった。
妻の抗がん剤治療の隙間になりそうな時期。
ピンポイントで狙った。
妻と両親にすぐさま報告。
休みの過ごし方の計画がはじまった。
前々から話していた妻を旅行に連れて行くプラン。
(一つ前の記事でも触れていた。)

これを具体的にしていくべく、それぞれの根回しがはじまった。
リスクを取って喜びを得る。
この場合のリスクは大きいように思えたが、妻が乗り気だったので誰もブレーキを掛けなかった。
いや、ブレーキを掛けることなど出来なかった。
妻に対してブレーキを掛ける資格など、私達にはなかったから。
リスクを取った人間を止められる人はそれを上回るリスクを取った人だけだ。
そうだろう。